育ちの良さに自信あり牧草牛

私達日本人は柔らかい牛肉が大好きです。脂肪が肉の中に細く入り込んでいる和牛の霜降りを珍重しています。肉そのものの味より脂肪のおいしさが重視される文化なのです。

日本人のこの嗜好は明治維新で肉食が解禁され、「牛鍋」がブームとなって以来、その進化形である「すき焼き」を好む日本人にとっては霜降り牛肉が最適だったからでしょう。

柔らかさと脂肪の多さに価値を置く日本人とは反対に、フランス人が好む牛肉は脂肪の少ない赤身肉です。柔らかいことには余りこだわらず、噛みごたえがあり、噛みしめるうちに旨味を感じとることを重視します。

今日は、フランス料理との相性の良い赤身肉の美味しさについて、検証して行きたいと思います。

フランス料理には脂肪の少ない赤身が最適と言われています。
  グローバルスタンダードで誰が食べても美味しいと言われるフランスの国民食である牛肉は中世の時代、権力者の食べ物でした。フランス革命によって権力者に仕えていた料理人が待ちに出した店がレストランですが、レストランはレストレと言うフランス語の「元気を回復させる」と言う意味から派生した言葉で、店の看板には「素晴らしいレストレを売ります」と書かれていました。
このレストレとは肉のエキスを煮出したブイヨンの事であり、特に濃厚なブイヨンはコンソメと呼ばれていました。

丁寧にとったコハク色のコンソメはねっとりと舌にまとわりつく旨味があり、しみじみと身体にしみわたる深い味わいを持った「飲む牛肉」であったわけで、これを飲めば当時の人は、体力が回復出来ると信じていました。

当時のフランス市民にとって牛肉はめったに口にする事のない大御馳走でしたが、肉は硬く、しっかりと食べるには丈夫な歯やアゴは欠かせないし、それなりの体力も必要でした。
しかし、レストレ(コンソメ)は噛む必要のない液体の牛肉です。病気の人でも食べられるので大変重宝がられ、このスープの優しさが受けて、大人気を博していたのです。このレストレを売る店はここが「健康の館」である事を看板にかかげており、街の薬屋さん的な存在でした。

そこに来た人が皆元気になってもらえる店、これがレストレの本質であり、この様な店をレストランと呼ぶ様になったのです。レストランに来られたお客様に「元気をお届けする」これはレストランの使命であり、現代においても、その姿勢を変える事があってはなりません。フランス料理の中で牛肉料理は、その様な観点からも健康を意識する事が大切で、牛肉の選び方も考えなくてはならないと思っているのです。

エスコフェが提唱した技術体系を学んだ料理人達が、地方のレストランを買い取ってオーナーになり、シェフパトロンとして活躍し始め、その技術体系を地方へと伝播した事は、フランス料理にとってはとても重要なことでした。アレクサンドレ・デュメーヌ、フェルナン・ポワン、アンドレ・ピックがその代表とされるシェフ達ですが、その弟子達であるボキューズ、トロワグロ兄弟、アラン・シャペルがそれを引き継いで行きます。

第二次大戦を挟んで社会は大きく変化し、経済や科学の発展は目覚しいものがあったわけですが、機械化が進んだ事でライフスタイルも様変わりし、力仕事をしなくしても良くなった人々は、昔ほどカロリーを消費する必要もなくなりました。必然的に人々の料理嗜好も変り始め、社会全体に新しい価値観を求める気運が高まりました。こうした諸々の影響を受けてフランス料理全体に新しい流れが生まれます。それがヌーベルキュイジーヌであったわけです。

この考えというのが、素材の味を尊重し追求する事が重要であるとされ、料理人の想像力と完成度が重要視されます。1970年代から「軽さを打ち出した料理」への移行が顕著になって行きます。素材本体の味を生かすために、料理に使う脂肪の量を極力抑えたり、ソースに使われていた小麦粉を使わなくなりました。

こうした流れに伴い、素材自体にも脂肪の在り方が取りざたされ、脂肪嗜好から赤身嗜好へ移行する様な動きがあるようです。

牧草牛は広大な牧草地に放牧し、ライグラスやクローバーなどの栄養価の高い牧草だけを食べて育ちます。赤身肉が充実して皮下脂肪が少ないのが特徴です。

牧草だけで充分な栄養が摂れる為、成長促進ホルモン剤を投与しなくても良いのです。
抗生物質は病気治療の為のみに使用し、投与された牛に関しては識別されて、屠蓄時に抗生物質残留の有無を厳密に検査されるので安心して使う事が出来ます。

ニュージーランドの牧草牛は肉質の良いアンガス種などのイギリス系の肉用品種が中心で肉本来の味が濃く、肉好きの人々を充分に満足させられる肉だと思います。

今日の牛肉はニュージーランドのアッシュバートン市のワカヌイにある「ファイブスター牧場」の牛肉ですが、世界で唯一海岸線に立地する牧場である為、海側から牧場を抜け、山に向かって吹き上げる風によって常に新鮮な空気に満たされていて、ホコリや病原菌を媒介するハエの発生がほとんどありません。

この牧草牛は赤身肉の旨味、脂のコクと香り、噛みしめた時に溢れ出る肉汁があり、牛肉の中でも一番リッチで、力強く深い味わいを持つ素材と言えます。

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