特別編

「フランス料理と食材」
農林水産業から日本を元気にする国民会議 ~田園からの産業革命
国民会議幹事 北岡 尚信

1987年11月21日、東京フランス料理サミットと名うったシンポジウム87が開催された。

ホテル業界の大御所、故小野正吉ホテルオークラ総料理長と時代を駆ける三人の街の若手料理人と呼ばれた石鍋 裕・井上 旭・北岡 尚信の共同作業によるガラディナーが開催され整いつつあるフランス料理食文化を根付かせて行く事を目的として生産者・料理人ワイン研究家ソメリエ・評論 化・編集者・テレビ番組プロデユーサー・ジャーナリスト・の方々により構成されたシンポジウムが組み合わされた企画だった。

その時のテーマが ”料理と食材”

「本場のフランスで使われている食材を そのまま日本でも使いたい」これが、フランス料理に携わっている料理人達の長年の夢だったが、やっとその夢が日常のものとなり始めた頃で、それをテーマにディスカッションがなされ大いに盛り上がった。

私は、38年前にホテルで料理人としてのスタートをきったが、当時日本のホテルは国際化を目指していて、フランス人料理長を積極的に招聘し、日本に本格的なフランス料理の導入をはかるための努力をしていた時期であった。

ホテルの料理長は、フランスへ派遣され、短い研修期間の中でフランス料理を学びとり、帰国し若手に指導してくれていたが、若手料理人は教わりながら料理を進めて行っても直ぐに壁にぶちあたってしまう。

原書を開き、レシピを基に調理するのだが、料理が成立しない。

日本とフランスでは 素材に資質の違いがある為 当然なのだが、当時はそれも分からずその疑問を解消したいという気持ちにかられた若い料理人達は青雲の志を抱いて、フランス修行に出かけて行ったのだった。

本場フランスでは見るもの、聞くもの、新しい体験と出会う事ばかり。

たくさん勉強して、その”今のフランス”を胸一杯に吸収して帰国した若者が、新進気鋭の料理長として、活躍し始め日本の 本格的フランス料理はここから歩き始めて行く。

それから10年余りの間に、フランス食材導入の願いが結実し始め、この頃から社会的なグルメブームの到来 という流れが起こり始める。

フランス料理界は80年代~90年代にかけ躍進し、大きく盛り上がっていく訳だが、ここにもう一つ大きな潮流 が存在していた。

それは、日本の農家や酪農家、そして、その他の食材を生産している人々や、扱っている人達の意識変化である。

日本でフォアグラを生産する人の出現や、これまで手がける人の少なかった香草や西洋野菜類に、一部の農家や農協が積極的に関心を示し、料理人の注文を粘り強く聞きながら、西洋野菜を日本で栽培する様になった事だ。

基本素材はフランスから、生鮮食材は日本で の仕入れが確立された事で、日本での本格フランス料理がどれだけ作りやすくなった事だろうか。

こうして、30代の若手料理人を中心に 日本のフランス料理界は 大きく飛躍をとげる事となる。

この様に高揚してきたフランス料理界にも課題がなかった訳ではない。

その一つは、フランス料理を提供するレストランやホテルのほとんどが「三つ星料理」、つまり 「高級フランス料理」を志向していた点で、これは、フランス料理が外国料理である為、やむを得ない事でもある訳だが、裾野が狭く頂点が広いという逆ピラミッド状況では健全なフランス料理の発展は望めないからだ。

中国料理やイタリア料理の台頭を見れば明らかなように、フランス料理の普及を考えるならば正しいピラミッド状況にする努力が必要なのであって、フランス料理の底辺を支えてくれる幅広い客層がたくさんいなければならない。

その対応策としてポピュラーなフランス料理、単純なフランス料理を提供する店を増やす努力をしてきたのだ。

今、料理ジャンルの垣根がなくなり、グローバルな視野でメニュー開発がなされてこの10年、フランス料理は 「カジュアルフレンチ」 のコンセプトでシェア拡大を目指してきたのだが、私達の本来の目標である フランス料理の社会的基盤の確立 と言う立場で望むのなら、我々フランス料理人は「食育」という重要な大きなテーマの基に「家庭に家族で作れるフランス料理」を浸透させて行く為の努力が必 要であり、主婦の良きパートナーとしての役割を果たす事が料理人としての使命でもあるように思えてならない。

「素材を正しく理解して、調理するという事が、美味しい料理への道につながる。」

けっして高級食材を使う事だけが フランス料理の道なのではない。

素材の本質をしっかりと見極めて、適切な調理を組み立てるという事が大切な事なのではないだろうか。

この秋 開催される国民会議の記念イベント事業”東京ファーマーズマケット2005”は”シュフとシェフとファーマーのおいしい関係”をテーマとしている。

三者それぞれの総合努力が結実する事で、明日のフランス料理も見えて来るような気がする。

皆さんと共に頑張り事業を成功させ、家庭フランス料理の実現に繋げられる事が今の私の楽しみであり、目標とするところである。

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